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退去するときの壁紙の費用負担はどこまで?賃貸物件の原状回復の範囲

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退去するときの壁紙の費用負担はどこまで?賃貸物件の原状回復の範囲

賃貸物件を退去する際の原状回復はトラブルになりやすく、特に壁紙の張り替えに関する費用は、貸主と借り主でギャップが大きくなりがちです。壁紙は、部屋の中でも大きな面積を占めるため、汚れやすく、張り替えが必要になることが多い箇所です。

今回は、原状回復に関する項目の中でもトラブルの多い壁紙の張り替えのルールや費用負担についてご紹介します。

【目次】

1. 退去時の原状回復で多い「壁紙」トラブル

2. 経年劣化は貸主負担

3. 通常損耗を超える借り主負担の範囲

4. 原状回復ガイドラインに沿って公平な対応を

退去時の原状回復で多い「壁紙」トラブル

壁紙は部屋の中で占める面積が大きいため、部屋の印象を大きく左右します。しかし、長く住んでいると汚れていることに気づかず、「なぜ、張り替え費用を負担しなければならないのか?」と借り主が不信感を持つことがあります。それが原状回復の項目の中で壁紙トラブルが多い理由の一つです。

●原状回復の費用負担で多い「壁紙」

生活していると気づきにくいですが、退去時に家具や物がなくなった部屋の中では、傷やクロスの剥がれ、汚れなどが際立って見えます。壁紙は、家具の角がぶつかるなど、ちょっとしたことで傷がつきやすく、賃貸物件の原状回復の中で費用負担が大きくなりやすい部分です。借り主が負担すべき原状回復費用が、敷金だけでまかないきれなくなることも少なくありません。

●ポイントは壁紙の耐用年数

新築物件の新しい壁紙と、入居時点で張り替えられてから数年経っている壁紙では、張り替えにかかる費用が同じだとしても、借り主にとっては原状回復費用として同額の負担を求められるのは不公平に感じてしまうでしょう。

そこでポイントとなるのが壁紙の耐用年数です。壁紙の耐用年数は6年とされており、年数が経つごとに借り主の費用負担分は減っていきます。6年を超えると、原状回復義務のある傷や剥がれがあったとしても、借り主に張り替え費用は請求できません。

6年以内の壁紙の張り替えも、張り替えた範囲すべてで費用負担を求められるわけではありません。壁紙は、傷や汚れが一部であったとしても、汚損部分だけ張り替えると以前の古い壁紙と色の差異ができてしまうため、壁一面を張り替える必要があります。狭いスペースなら壁一面をクロス一枚で覆っているかもしれませんが、一般的には広い範囲を複数枚のクロスで覆っています。

例えば、クロス三面分を張り替えるとき、借り主に張り替え費用を請求できるのは汚損があった部分のクロス一面分までです。残りの二面は、借り主が破損した箇所ではないため、貸主負担となります。

経年劣化は貸主負担

原状回復をめぐる貸主と借り主の費用負担の割合は、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で定められています。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の中では、居住していた期間の経年劣化による損耗については借り主に原状回復の義務はないとされており、もちろん壁紙も費用負担の必要はありません。

壁紙の経年劣化とは、例えば家具を設置していた場所やポスターを貼っていた箇所の日焼け跡、家電製品の裏に接していた壁の電気焼け、画鋲やピンを刺したことによる小さな穴などが当てはまります。

経年劣化の修繕費用は、毎月の賃料に含まれており、貸主にすでに支払っていると考えられています。そのため、退去時に経年劣化による汚損から修繕が必要になった場合でも、貸主が修繕費を負担することになるのです。

通常損耗を超える借り主負担の範囲

生活をしていて生じる通常損耗は貸主の負担ですが、激しい劣化や借り主が注意を怠ったと判断できる損耗については、借り主の負担となります。

●タバコのヤニ汚れ・ニオイ

タバコのヤニによる変色やニオイは、部屋の壁から天井の全面にまで及ぶことが多く、壁紙の全面張り替えが必要になります。つまり、「壁一面の張り替え時に、汚損した部分のクロス一面分だけ借り主負担」という内容は、タバコによる汚損には適用されません。

タバコの焦げ跡が壁の一部分に付いていた場合も、全面張り替えとなります。ヤニによる変色やニオイがない部屋ならクロス一面分だけが借り主負担になるケースもあるかもしれませんが、基本的にタバコによる汚損の修繕費用は、敷金でまかなえない金額になる可能性が高いでしょう。

●掃除を怠ったことによるシミやカビ

賃貸物件の借り主は、入居から退去するまでの間、一般的な注意を払って部屋を管理しなければならないという「善管注意義務(善良な管理者の注意義務)」を負っています。

善管注意義務には「常識的な範囲の掃除」を行うことも含まれており、キッチンの壁紙に付いた油汚れを放置したり、冬場の結露やクーラーの水漏れを怠ってシミやカビを発生させたりすることは、「善管注意義務違反」に当たる行為です。故意や過失で部屋を汚損した場合と同じように、原状回復費用は借り主の負担となります。

●ペットによる引っかき傷やニオイ

ペットを飼育している部屋では、一般的に壁紙の汚損が大きくなります。タバコの焦げ跡と同様に、傷がある部分のクロス一面分の張り替え費用が借り主の負担となります。

ただし、ペット禁止物件で飼育していた場合は、壁紙に付いてしまったニオイを除去するため、全面張り替えが必要です。この場合は、張り替えたクロス全面分を借り主負担として請求することが可能です。ペット可物件ではペットによる汚損も想定された家賃が設定されていますが、ペット禁止物件では費用が考慮されていないためです。

また、引っかき傷が深く、下地ボードまで影響している場合は、壁紙の交換だけでなく、下地から換えるための処理費用も発生します。

原状回復ガイドラインに沿って公平な対応を

居住者がどれだけ気をつけて暮らしていても、壁紙をずっときれいに保つことは難しいものです。「乱雑な使い方はしていないのに」と、負担金額に納得してもらえないこともあるでしょう。

貸主、借り主どちらの立場であっても、原状回復ガイドラインに則った公平な対応を行うことが、トラブルを回避するポイントです。