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原状回復のトラブルを回避!実際のトラブル例と負担すべき範囲とは?

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原状回復のトラブルを回避!実際のトラブル例と負担すべき範囲とは?

賃貸住宅を退去する際、原状回復の範囲や負担請求をめぐってトラブルが起こりがちです。ほとんどは、賃貸人の賃借人への説明不足や、両者の認識の違いなどが原因です。
トラブルを回避するためには、原状回復に関する説明を賃貸人が賃借人にしっかりと行い、双方が納得する必要があります。そのため、賃貸人はあらかじめ、原状回復のルールをきちんと理解しておくことが大切です。
今回は、トラブルを回避するため、賃貸人・賃借人それぞれの原状回復の負担範囲について事例を基にご紹介します。

【目次】
1. 原状回復のトラブル例
2. 賃貸人の負担する範囲
3. 借り主が負担すべき範囲
4. 原状回復についての理解がトラブル回避のポイント

原状回復のトラブル例

賃貸住宅の原状回復に関するトラブルは多く、2016年に独立行政法人国民生活センターに寄せられた相談件数は13,016件に上ります。

●賃借人側からのよくある相談事例(国民生活センター以外への相談事例も含む)
賃借人のトラブル相談で多いのは、過剰な原状回復費用の請求に関するものです。
「原状回復費用として高額な請求をされた」
「返金すべき敷金を原状回復費用として徴収され、返してくれない」
「請求されて過剰に支払った原状回復費用を返還してほしい」
「口頭で説明を受けた原状回復費用と後日届いた明細の内容が違うため、支払いが納得できない」

なぜ、高額な原状回復費用を払わなければならないのか、過剰に払った原状回復費用を取り戻すにはどうすれば良いのかといったことが主な相談内容です。

●賃貸人側からのよくある相談事例(国民生活センター以外への相談事例も含む)
賃貸人のトラブル相談で多いのは、原状回復費用を負担してもらうための対処についてです。
「ペット不可物件でペットを飼育していたので、原状回復費用を請求したい」
「喫煙者が入居していたので、壁紙の原状回復費用が高額になった」
「入居者が一般的な手入れを怠っており、原状回復費用が高額になった」
「経年劣化を主張され、敷金の返還を求められている」

原状回復費をどのように請求すれば良いのかという相談と、原状回復費用の負担を拒む賃借人に対してどう対処すれば良いかという相談が多くなっています。

参考:独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル」
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/chintai.html

賃貸人の負担する範囲

通常損耗と経年変化による劣化の原状回復は、賃貸人が費用を負担しなければなりません。しかし、賃借人が故意や過失による汚損を通常損耗や経年劣化と主張することもあります。「どこまでが経年劣化や通常の使用範囲の損耗か」という点をしっかり把握することが必要です。

●通常損耗と経年変化の例
・クロスやフローリング
家具による畳やカーペットのへこみ、冷蔵庫やテレビなど家電製品の電気焼けによる壁の黒ずみなどは、生活している上で仕方のない損耗です。また、画鋲やピンで壁などに刺したときの穴も通常損耗に含まれるため、賃貸人が負担します。しかし、刺した穴が壁の下地ボードまで傷つけている場合などは、賃借人に原状回復費用を請求できます。

・部屋の設備、機器等の故障
故障原因が機器の寿命によるものであれば、賃貸人が修理費や交換費を負担します。しかし、賃借人が故意・過失で壊した場合は、修理費用として賃借人へ請求することが可能です。

●入居者募集のための準備
水回りの一般的な汚れの清掃と消毒、エアコンの内部洗浄など専門業者によるハウスクリーニングは、次の入居者を迎えるための準備として賃貸人の負担となります。また、特に汚れや破損のない畳や網戸の交換、鍵の取り替えなども以前住んでいた賃貸人には関係ないことなので、原状回復費用として請求することはできません。

借り主が負担すべき範囲

賃借人が負担すべき原状回復費用の範囲は、「善管注意義務」と「原状回復義務」に基づいて決まります。

●善管注意義務違反で生じた傷や汚れ
善管注意義務とは民法第400条に由来するもので、賃借人は部屋の管理者として一般的なレベルの注意を払って使用しなければならないと定められています。通常の掃除で落とせる汚れや簡単に修繕ができる程度の破損を放置したままにするのは善管注意義務違反に当たり、その結果、汚れや故障の範囲が拡大した場合は、賃借人に原状回復費用を請求することができます。

具体的には、飲みこぼしや食べこぼしを十分に清掃しなかったために残ったカーペットのシミ、日常の掃除を怠った結果のカビやシミ、クーラーの水漏れ放置による壁や床、天井の腐食、水回りの過度なカビや水垢など、不適切な使用や手入れ不足による部屋の設備の故障はほとんど善管注意義務違反で生じた傷や汚れに該当します。

●原状回復義務の範囲以上の傷や汚れ
通常の使用ではないと判断されるような汚れや傷、故意や過失などで部屋を汚損した場合は賃借人が原状回復費用を負担すべきとみなされます。

例えば、フローリングや畳、カーペットについた煙草の焼け焦げ、引っ越し作業や模様替えなどで家具をぶつけて生じた傷、ペット不可物件でペットを飼っていた場合の汚れや染み付いたニオイなどは、賃借人に原状回復費用を請求可能です。

原状回復についての理解がトラブル回避のポイント

原状回復費用の負担範囲は、国土交通省が策定する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で具体的なルールが決められています。賃貸人、賃借人の双方が正しくルールを理解していればトラブルには発展しにくいはずですが、相談事例を見ると賃借人に原状回復費用の負担を求める際や契約時の説明不足がトラブルの原因となっていることがわかります。
トラブルを回避するためには、賃借人に部屋の管理者としての義務が発生していることを意識させ、費用負担の生じる範囲を認識してもらう必要があります。また、賃貸人は費用負担の理由や内訳について、明確な説明を怠らないようにしましょう。